「表現の自由」を理解する
憲法21条で保障される「表現の自由」のレジュメです。
憲法21条
1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
憲法21条1項の保障は、言葉による表現の他、あらゆる手段・方法による表現の自由に及ぶ。
多数人の集合による精神活動である集会・結社の自由も表現の自由として保障される。
表現の自由の価値
自己実現
表現活動を通じて個人の人格を発展させるという個人的な価値。人間的成長のために表現活動が大事であるという価値観。よって、表現の自由の抑圧は、個人の人格に対する直接的な抑圧となる。
自己統治
民主政における意義。国民は、表現活動によって政治的意思決定に関与する。よって、表現の自由は、市民が政治に参加するための基礎をなす権利。
→民主主義を形成する上で必要不可欠な権利。ここにあらぬ制約が掛かると、民主政の過程に瑕疵、つまり民主主義に欠陥が生じるおそれ。→表現の自由に関わる問題は他の権利よりも厳格に審査される(違憲性が推定されて審理される=行政側に立法事実の妥当性の証明が求められる)〔二重の基準論:通説(芦部)判例(薬局距離制限事件S50.4.30、小売市場事件S47.11.22)の立場〕。
⇒「思想の自由市場」の確保が求められる。
この自由市場で、各人の思想や意見が自由に交換され、「真理」の発見とそれに基づく社会進歩が可能となる(これが社会的な重要性、表現の自由の社会的効用)
集会の自由
集会や結社により、集団としての意思を形成し、集団として外部に表明する自由。表現の自由の一形態。
最高裁が示した意義(成田新法事件・最大判H4.7.1)「現代民主主義社会において、集会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、また、相互に意見や情報等を表明するための有効な手段であるから、憲法21条1項の保障する集会の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならない」
公の施設の利用
【地方自治法244条】
1項 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。
2項 普通地方公共団体(次条第3項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。
3項 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。
判例 泉佐野・上尾
地方自治法244条に当たる公の施設に当たる場合、正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならず、また、住民の利用にゆいて不当な差別的取扱いをしてはならない。
とくに、集会の用に供する施設の場合、この設置目的に反しない限り、原則的に利用が認められ、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生じる。
したがって、正当な理由とは、「利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその集会のために利用されることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られる」。
↓ <個々の条例もこの地自法244条の解釈に適合する形で解釈>
泉佐野(最判H7.3.7)
関空建設に反対する団体が会館使用申請したところ、泉佐野市は、当該団体の実体はいわゆる中核派(全学連反戦青年委員会)が主催するものであり、中核派は、本件申請の直後である4月4日に連続爆破事件を起こすなどした過激な活動組織であることから、本件条例7条のうち1号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」及び3号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」に該当すると判断し不許可とした。これに対して、不許可処分の取消と国賠法に基づく損害賠償を請求した。
条例7条1号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」というのは広義の表現であるが、「本件会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、」「単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当で」、このように解する限り、「このような規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法21条に違反するものではなく、また、地方自治法244条に違反するものでもない」。
上尾(最判H8.3.15)
全日本鉄道労働組合総連合会が、総務部長田中豊徳が帰宅途中何者かに殺害された事件を受け、同氏を追悼する合同葬を行うために上尾市福祉会館に使用許可を申請したところ、上尾市は、内ゲバ事件ではないかとみて捜査が進められている旨の新聞報道がある等の事情から、本件条例6条1号に当たるとして不許可処分をした。これに対して、本件処分は違法であるとして、国賠法に基づく損害賠償を請求した。
「本件条例6条1号は、『会館の管理上支障があると認められるとき』を本件会館の使用を許可しない事由としているが、この規定は、会館の管理上支障が生ずるとの事態が許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合にはじめて、本件会館を許可しないことが出来ることを定めたものと解するべきである」。そして、「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らがこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことが出来るのは、公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど、特別な事情がある場合に限られる」。
指定管理者制度
公の施設の利用許可・不許可を指定管理者が行う場合、集会の自由との関係で正当な運用が求められる。したがって、正当な理由がない限り利用許可を出すという公平な取り扱いが要求されるのは当然である。
さらに、そのような取り扱いだけではなく、管理者自身の政治的中立性を求めることが妥当なのか、これに関して、地方自治法は244条の2第3項以下で、民間団体が行政行為を行うことが可能だということを規定するのみであって、法律上の規制はない(管理を行う側の団体の規制)。
【地方自治法は244条の2】
1項 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
2項 普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない。
3項 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であって当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第244条の4において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。
4項 前項の条例には、指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項を定めるものとする。
5項 指定管理者の指定は、期間を定めて行うものとする。
6項 普通地方公共団体は、指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない。
7項 指定管理者は、毎年度終了後、その管理する公の施設の管理の業務に関し事業報告書を作成し、当該公の施設を設置する普通地方公共団体に提出しなければならない。
8項 普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金(次項において「利用料金」という。)を当該指定管理者の収入として収受させることができる。
9項 前項の場合における利用料金は、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定めるところにより、指定管理者が定めるものとする。この場合において、指定管理者は、あらかじめ当該利用料金について当該普通地方公共団体の承認を受けなければならない。
10項 普通地方公共団体の長又は委員会は、指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる。
11項 普通地方公共団体は、指定管理者が前項の指示に従わないときその他当該指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるときは、その指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
結社の自由
結社は、共通の目的で多数人が継続的に結合する点で、場所を特定した一時的結合である集会と区別される。
結社の自由は、結社(団体)と個人の自由との緊張をはらみつつも(近代憲法成立時はギルドなどの封建的団体からの個人の解放が課題だった)、共通の目的による精神的結合として重要な意義を持つ。憲法はこれを保障するが、その自由は、団体を結社すること、加入すること、団体として意思形成し活動することと伴に、結社・加入しない(脱退する)自由を含む。結社の自由は、宗教団体について20条、労働組合について28条、経済団体について22条によっても保障される。