〔考察〕政治資金規正法21条と憲法との関係
命題:政治資金規正法21条の「会社等の寄附の制限」および21条の3の「寄附の総額の制限」は憲法上どのように評価すべきものか。
会社の政治資金寄附(=政治献金)に関するリーディング・ケースとして、八幡製鉄事件がある。
八幡製鉄事件最高裁判決(最大判S45・6・24、民集24巻6号625頁)は、「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有する」としたうえで、「目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含される」と示した。
そして、会社は「自然人とひとしく」、社会等の「構成単位たる社会的実在なのであるから、「会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであ」り、政党の「健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではない」、として会社が行う政治献金について権利能力を認めた。
また、「会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。」「憲法上は公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有する」ことを示した。
最高裁は、八幡製鉄事件で、会社の人権享有主体性を広く認め、政治資金の寄附も自由であるとした。
通説的見解がいうように、①法人の活動は自然人を通じて行われその効果は自然人に帰属すること、②法人は社会において自然人と同じく活動する実体であり重要な役割を果たしていること(芦部『憲法学Ⅱ』164頁)から、法人の人権享有主体性を認めること自体は正しいと考える。
しかし、八幡製鉄事件最高裁判決が示すような範囲まで認めてしまうのは問題である。人権の本来的な享有者である自然人の権利の保障を第一に考えるべきであるのに、法人(団体)の権利があまりにも広く認められることで、個人の権利が害される危険が生じる。
政治献金の場合、会社と自然人との間には資金力の大きな差があり、「資金力による政治過程のひずみ」を生じさせてしまう。
そこで、政治資金規正法による、会社の寄附の制限、さらには金額の制限は、法人(団体)と自然人との差、もしくは資金力の差、という問題を克服するための正当な制限であると考える。